今回から、FDA理事長の竹末俊昭(元・拓殖大学工学部デザイン学科教授)による「読書メモ」を不定期でUPしていきます。
第1回目は、最近読んで「眼から鱗が落ちた」書籍を紹介したい。
今年に入ってから、ほぼ月に2回以上、家内の病院通いに着き添うようになった。夫婦とも後期高齢者の領域に入り、眼科や内科、そしてクリニックから大学病院までいろいろなところを訪れる機会が増えてきた。そんな時、送り迎えと付き添いのために、相当な無駄な時間を費やして、嫌気がさしていたところに、今回ご紹介する文庫本「医者は患者の何をみているか」(2020年11月発行・ちくま新書、¥800+税)に出会った。
著者である「國松淳和・医師」は1977年生まれなので、まだ45歳という若さである。現在の勤務場所が、たまたま西八王子にある南多摩病院・総合内科部長・専門医であり、高尾にあるFDAにとっては、非常に身近に感じた次第である。分かりやすく解説しているので、ぜひみなさんにも紹介したい。
「素人の診断とプロの診断の違いは何か」に始まり、「医者がどのような「み(診、見、観、看)方」をして「何をみているのか」を解説し、「診断で使う思考法」にも触れており、小生の専門でもあるデザイナーの思考方法に似ているところがあることからも共感を覚えた。 また、後半には、平面である「二次元(x軸とy軸で構成される平面)」を動かして「三次元」(z軸である立体=空間)把握して「思考構築」していく手法を説明し、さらに、四次元(ω軸の時間軸)を加えることによって、空間を動かし、脳の中に概念構成していく姿は、まさに、デザイナーと重なる部分も多いと感じた次第である。
一方、小生が半世紀ほど前に某大手電機メーカーに就職した直後、小生の卒業した大学のある先輩から「デザイナーはな、『無』から『有』を創る大事な仕事をするんだぞ!」と教えられたことを思い出した。彼は、小生のちょうど10年先輩にあたる方で、父親の仕事が産婦人科医であり、某私立大学の医学部に進んだものの、2年で退学した後、デザイン系の大学に再挑戦し、見事国立大学に合格した強者(つわもの)である。あるとき小生がその先輩に「なぜ医者の息子であり、医学部で2年も学んだのにもかかわらず、辞めてまで将来の見通しが分からないデザイナーを目指す決心をしたのですか?」と尋ねたところ、「医者は壊れた体を元に戻すのが仕事であり、俺はゼロからプラスのモノを作りたいと常々思っていたから、医者よりも『デザイン』という未知の領域に挑戦したんだよ!」という応えが返ってきた。その後「この先輩に着いて行こう」と決心し、先輩をカガミにしながらデザイナーという職業を、半世紀以上続けてきた。彼はまだ健在で、毎年年賀状の交換をしている尊敬する先輩の一人である。
もっとも最近では予防医療とか、健康促進とかプラスの領域も増えてきたものの、大部分の医者は「正常でなくなった状態を元に戻す役割」を担っているのではないだろうか。
もちろんウイルスだらけの患者を前に、防護服を身に着けて危険を顧みず、昼夜働いておられる医者をはじめ、献身的に働いている医療従事者の方々には頭が下がる思いである。